SLEEP CARE / CBT-I
不眠症の認知行動療法(CBT-I)とは
眠りを整える6ステップ
日誌で気づく。考えをほどく。無理なく続く方法を見つける。

「眠れない夜を何とかしたい」「睡眠のことを考えすぎて、かえって目がさえる」。不眠が続くと、眠るための工夫が少しずつ増え、夜そのものが負担になることがあります。CBT-I(不眠症の認知行動療法)では、眠りと生活の記録を見ながら、役立つ工夫を残し、負担になった習慣や考えを少しずつ見直します。
ここでは、眠りの困りごとの確認から、日誌、考え方、緊張への対処、振り返りまでを6つのステップで紹介します。ご自身の眠りを振り返り、診察で相談するための生活ガイドです。CBT-Iには、5〜6回程度の診療で進める方法があります。実際の回数・順番・間隔は、状態や治療方法によって変わります。
この6ステップは、CBT-Iの考え方を日常生活に照らして読むための案内です。当院の対面CBT-Iコースの案内ではありません。医師の管理下で使う治療用アプリについては、不眠症の治療案内をご覧ください。
STEP 01
1 困りごとと治療の目標を確認する
まず確認したいのは、「何時間眠れるようにするか」だけでなく、何に困り、どんな日常を取り戻したいかを共有することです。寝つき、中途覚醒、早朝覚醒に加え、疲労、眠気、気分、集中力、仕事や家事への影響を確認します。
眠りを妨げる別の要因も、一緒に確認します
いびきや呼吸停止、脚を動かしたくなる不快感、痛み、気分の落ち込み、交代勤務などがあれば伝えてください。薬やお酒、カフェインの影響も確認します。不眠をすべて「考え方の問題」にするわけではありません。別の病気への治療が必要な場合もあります。
CBT-Iは、知識・行動・考え方を組み合わせる治療
眠気は、起きていた時間に応じて高まる働きと、体内時計の働きの両方から影響を受けます。眠れないことを心配して早くから寝床に入り、長く目がさえたまま過ごすと、寝床と緊張が結びつくこともあります。睡眠の仕組みを知るだけでなく、寝床での過ごし方、時間の取り方、眠りへの予測を一緒に調整するのがCBT-Iです。
目標の例
「必ず8時間眠る」より、「夜に時計を確認する負担を減らしたい」「午後の会議をもう少し楽に過ごしたい」「翌日の予定を睡眠への不安だけで取りやめずに済むようにしたい」。達成できる小さな目標から始めます。
日々の記録は、朝に大まかに書く程度で構いません。処方薬を飲んでいる場合も、そのまま医師へ共有し、治療を始めるからと自己判断で中止しないでください。
STEP 02
2 睡眠日誌から生活の特徴を知る
睡眠日誌は「正しく眠れたか」の採点表ではありません。寝床に入った時刻、眠ったと思う時刻、夜間の目覚め、最終的に目が覚めた時刻、寝床を出た時刻、昼寝、翌日の調子を記録し、数日から1〜2週間の傾向を見ます。細かな分数を知るために、夜中に時計を見続ける必要はありません。
以下は説明のために作成した架空の例です。薄い水色は「寝床で起きていた時間」、紺は「眠っていたと見積もる時間」。日誌だけで病名や原因が確定するわけではありません。
例① 早くから寝床に入るのに、夜中に何度も目が覚める
Aさんは「眠れない分、早く横になろう」と21時に入床。眠ったのは22時30分ごろで、夜中に何度か目が覚め、目覚めていた時間は合計約1時間。6時に最後に目が覚めても、7時まで寝床で粘っています。
Aさん|寝床に10時間、眠りは6時間30分
紺:眠っていた 水色:寝床で起きていた
← 就床時間 10時間 →
90分 起きていた
21:00〜22:30
30分 起きていた
1:00〜1:30
30分 起きていた
4:00〜4:30
60分 起きていた
6:00〜7:00
寝床で起きていた時間は、合計3時間30分。
寝床にいた時間は10時間、推定の睡眠は6時間30分。「寝床にいた時間」と「眠っていた時間」は同じではありません。眠りを増やすつもりの早い入床が、眠れずに過ごす時間を長くしている可能性を考えます。ただし、夜間覚醒には無呼吸、脚の症状、痛み、夜間頻尿なども関係するため、それらも確認します。
医療者とは、起床時刻や昼寝の状況、眠気がないのに寝床に入っていないかを相談します。寝床の時間を調整する治療を選ぶ場合も、安全性や日中の眠気を見ながら個別に進めます。この例を読んで、自分の寝床の時間を一気に6時間30分に縮めるものではありません。
例② 平日は短い睡眠、週末は昼近くまで眠る
Bさんは平日に仕事や家事が続き、0時30分に就床、0時45分ごろに眠り、6時に起床。週末は2時に就床して2時15分ごろに眠り、11時に起きます。「日曜の夜は眠れず、月曜の朝が特につらい」と感じています。
Bさん|眠りの真ん中が3時間15分ずれる
紺:眠っていた 水色:寝床で起きていた
平日|0:45〜6:00に睡眠
休日|2:15〜11:00に睡眠
睡眠の中点の差
3時間15分
睡眠の中点は、眠り始めと最後に目覚めた時刻の真ん中です。この例では、平日3時22分30秒、休日6時37分30秒。図の時刻は分単位に丸めて表示しています。
まず注目するのは、平日に眠る機会が足りているかです。この例の推定睡眠は平日5時間15分、休日8時間45分。週末の長い睡眠は、平日の不足を補おうとしている可能性があります。同時に、休日の遅寝・遅起きと平日の時刻との差が、週明けの寝つきや起きづらさに関わる場合もあります。
仕事や家事、夜の過ごし方を振り返り、平日の睡眠を確保することから考えます。休日の起床時刻も無理のない範囲で調整します。このタイプへ一律に睡眠制限を当てはめると、睡眠不足を深めるおそれがあります。遅い時刻なら眠れることだけで、概日リズム障害とも決められません。
日誌が続かない「あるある」も治療の材料です
「空欄がある」「眠った時刻が分からない」「毎朝きれいに書けない」ことは珍しくありません。覚えている範囲で埋め、分からないところは空欄でも構いません。記録の完成度より、生活の特徴が見えることが大切です。時計やアプリの数字と体感が違ったときも、どちらかを無理に正解とせず診察で話します。
STEP 03
3 眠りへの考え方を見直す
睡眠の仕組みを知っても、「今日も眠れなければ大変だ」という考えがすぐ消えるわけではありません。ここでは知識のおさらいに加え、夜に自動的に浮かぶ予測や、自分に課している厳しいルールを見つけます。「認知の歪み」という専門用語は、その人の性格が悪いという意味ではなく、つらい状況で考えが一方向に偏ることを指します。
出来事と予測を分ける、4つの問い
① 実際に起こったことは? ② その瞬間、どんな考えが浮かんだ? ③ その考えを支持する事実と、例外になる事実は? ④ より幅のある言い方にすると? 楽観的になるためではなく、確かめられる事実に近づけるための問いです。
「8時間でなければ意味がない」
浮かんだ考え:7時間だった。今日は全部だめになる。
別の見方:睡眠の必要量には幅がある。時間に加え、実際の日中の調子を見てみよう。
小さく試すこと:翌日の集中力や眠気を記録し、睡眠時間だけで一日を採点しない。
「途中で起きたら、もう眠れない」
浮かんだ考え:夜中に目が覚めた。朝まで眠れないはずだ。
別の見方:いま目が覚めているのは事実。でも、この先ずっと眠れないかはまだ分からない。
小さく試すこと:時刻の確認を繰り返す代わりに、焦りが増えていないかに気づく。寝床での対処は医療者と相談する。
「眠れないのは自分の努力不足」
浮かんだ考え:生活指導を全部守れなかったから、治らない。
別の見方:眠りには体調や環境など多くの要因がある。できた工夫も数え、合わない方法は調整してよい。
小さく試すこと:「できなかった日」だけでなく、試せた日と少し楽だった場面を書き留める。
考えを見直しても不安が残ることはあります。不安をゼロにすることを新しい目標にせず、「不安があっても時計を見続けずに済んだ」など、行動の変化も評価します。強い眠気のある日の運転や危険作業は、考え方だけで乗り切ろうとせず安全を優先してください。
STEP 04
4 からだの緊張をゆるめる
緊張をゆるめる練習は、眠気を無理に起こすための儀式ではありません。「力が入っていた」「少し抜けた」という違いに気づく補助的な取り組みです。筋弛緩法や自律訓練法だけでCBT-I全体を置き換えるものではなく、合う方法を医療者と選びます。
例① 手を軽く握って、ほどく|漸進的筋弛緩法
背もたれのある椅子に楽に座り、足を床につけます。前腕を太ももなどで支え、手を軽く握って数秒、ゆっくりほどきます。握ったときと、指が楽になったときの違いを少し観察します。強く握る必要はなく、息は自然に続けます。手や腕に痛みがある場合は、その部位の練習を避けて相談しましょう。
例② 肩を少し上げて、自然に下ろす|漸進的筋弛緩法
同じ座位で、痛くない範囲で肩をほんの少し上げ、短く保ったら力を抜いて下ろします。首を大きく回したり、肩を強くすくめ続けたりしません。下ろしたあと、肩や腕が支えられる感覚を確かめます。一度で十分な場合もあり、何回も成功するまで繰り返す必要はありません。
例③ 重さ・温かさに静かに気づく|自律訓練法の導入イメージ
自律訓練法は、筋肉をいったん緊張させる筋弛緩法とは異なります。楽な姿勢で、「手が少し重たい」「腕が温かい」といった感覚へ穏やかに注意を向けます。実際に感じなくても失敗ではなく、重さや温かさを力で作ろうとしないことが大切です。この説明は導入のイメージで、正式な全手順を一人で行うための指示ではありません。

練習を終えるときは目を開け、周囲を見て、手足を楽に動かしてからゆっくり立ち上がります。身体の内側に注意を向けるとかえって不安になる方は、部屋の音や足が床に触れる感覚など、負担の少ない対象を選ぶ方法を相談します。
痛み、めまい、息苦しさ、不安の強まりがあれば中止します。心臓の病気や身体の痛みなどがある方は、合う方法を医療者へ確認してください。睡眠薬を飲んだ後に運動を始めたり、練習のため寝床で起きたまま長く粘ったりすることは勧めません。
STEP 05
5 眠りと日中の変化を確かめる
取り組みを振り返るときは、睡眠時間が伸びたかだけでなく、夜への不安、時計を確認する回数、寝床で焦る時間、日中の調子を見ます。以下はAさん・Bさんの架空の経過です。改善の仕方や、必要な期間には個人差があります。
Aさん:夜中の目覚めを「失敗」と決めなくなった
以前は「目が覚めたら終わり」と何度も時計を見ていました。相談を続ける中で、「いま起きていることと、明日すべてできなくなることは別」と考えられる場面が増えました。まだ途中で起きる日はあっても、眠れない時間への焦りが少なく、寝床で粘る負担も減ってきました。
Bさん:週末だけで取り戻そうとする生活を見直した
「平日は短くても週末に眠れば帳尻が合う」と考えていましたが、平日の睡眠機会と週末の時刻差を一緒に確認しました。夜の作業を一つ翌日に回すなど、平日の睡眠確保を優先。休日の寝起きも少しずつ整え、月曜のつらさがどう変わるかを振り返ります。睡眠を確保しながら、続けやすい時刻を探します。
考えの変化は、言葉と行動の両方で確かめます
「考え方は分かったけれど、夜になると焦る」段階でも構いません。「必ず眠らなければ」から「眠りに波がある中で、できる工夫を選ぼう」へ、少し幅ができたかを確かめます。実際に時計を見ずに過ごせた日があれば、それは説明を覚えた以上の変化です。
一緒に振り返る5項目
① 寝つきや夜間の目覚めのつらさ ② 睡眠全体の量と規則性 ③ 日中の眠気・疲れ ④ 眠りへの不安と行動 ⑤ 続ける負担。数日〜週単位で見て、一晩だけで結論を出しません。
改善が乏しいときも、努力不足とは考えません。別の睡眠障害、体調や気分の変化、勤務時間、方法の負担などを見直します。薬の量や種類の調整が必要な場合は処方医と相談し、CBT-Iの進み具合だけで自分で減薬しないでください。
STEP 06
6 眠りが乱れたときに備える
旅行や忙しい時期、体調不良で、再び眠りが乱れることはあります。治療の目標は「今後一度も眠れない夜をなくす」ことではなく、崩れたときに過度に焦らず、役立った方法へ戻れることです。必要に応じて、その後の診察やフォローアップで確認します。
自分用の「戻り方」を書き留める
調子がよい時期の起床や生活の目安、続けやすかった工夫、負担になってやめた工夫、相談するサインを短く残します。「また眠れなかった」と早寝や長い昼寝、時計の確認を一度に増やす前に、以前の日誌や気づきを振り返ります。
数日調子が悪いことと、治療がすべて無駄になったことは同じではありません。一方、日中の支障が強い、強い眠気が続く、いびきや呼吸停止がある、気分の大きな変動がある場合などは、自己流の調整を続けず受診で相談してください。
睡眠時間を自己判断で大きく減らすことは勧めません。運転・危険作業、転倒の心配、双極症やてんかんなどがある方では、睡眠制限を含む方法の調整が必要な場合があります。CBT-Iすべてが受けられないという意味ではなく、その人に合った進め方を確認します。
眠りの悩みは、意志の強さだけで解決するものではありません。生活、体調、考え方、薬やアプリの役割を一緒に整理し、続けられる治療を選んでいきましょう。
診療・治療用アプリについて知りたい方へ
医師の管理下で使う治療用アプリ、薬物療法、診察や検査については不眠症のページにまとめています。ここで紹介した6ステップと、アプリの具体的な進行・使用条件は同一ではありません。
参考文献・出典
日本睡眠学会教育委員会 編『不眠症に対する認知行動療法マニュアル 改訂版』金剛出版、2026年。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療上のアドバイスではありません。薬の服用中の運転については、必ず担当医師にご相談ください。




