不眠・睡眠薬・サプリ

オレキシンとは?働き・発見の歴史と治療薬

オレキシンとは?発見の歴史から治療薬まで。鍵と受容体を示す漫画の医師とマウス。

眠りを促す薬と、日中の覚醒を支える薬。反対向きの治療が、同じ「オレキシン」の研究から生まれました。受容体の相手探しから、マウスと犬のナルコレプシー研究、そして診療への応用までをたどります。不眠症の4剤を知りたい方は、目次から薬の一覧へ進めます。

更新・承認状況の確認:2026年10月3日

漫画で読む、オレキシンの物語

左から右へ、全5枚。横にスワイプして続きを読めます。画像をタップすると拡大します。

1.眠りの研究は、鍵探しから。遺伝子研究が広がった1990年代。相手の分からない受容体から、結びつく物質を探しました。
1 / 5 眠りの研究は、鍵探しから

遺伝子研究が広がった1990年代。相手の分からない受容体から、結びつく物質を探しました。

2.食欲の物質? オレキシン発見。1998年、米国で柳沢正史先生・櫻井武先生らがオレキシンを発見。名前は食欲を意味する言葉に由来します。
2 / 5 食欲の物質? オレキシン発見

1998年、米国で柳沢正史先生・櫻井武先生らがオレキシンを発見。名前は食欲を意味する言葉に由来します。

3.眠りの謎が、つながった。オレキシンを作れないマウスの行動と脳波が、ナルコレプシーの研究につながりました。
3 / 5 眠りの謎が、つながった

オレキシンを作れないマウスの行動と脳波が、ナルコレプシーの研究につながりました。

4.起き続ける働きを、弱める薬。不眠症の拮抗薬は、覚醒を支える信号を抑えます。悪夢や翌朝の眠気にも注意が必要です。
4 / 5 起き続ける働きを、弱める薬

不眠症の拮抗薬は、覚醒を支える信号を抑えます。悪夢や翌朝の眠気にも注意が必要です。

5.発見から、新しい治療へ。オーゼイフル錠(一般名:オベポレクストン)は、2026年8月に日本で承認。対象はナルコレプシータイプ1で、発売・処方の条件は別に確認します。
5 / 5 発見から、新しい治療へ

オーゼイフル錠(一般名:オベポレクストン)は、2026年8月に日本で承認。対象はナルコレプシータイプ1で、発売・処方の条件は別に確認します。

漫画:下浦雄大。元の投稿・続編をもとに2026年10月改訂。承認情報:武田薬品の発表。

発見の出発点|相手の分からない受容体

1990年代、遺伝子の情報から受容体が次々に見つかりました。ただし、受容体が見つかっても、体の中のどの物質が結合するのかは分かりません。そのような受容体を「オーファン受容体」と呼びます。鍵穴は見つかったけれど、鍵がまだ分からない状態です。

柳沢正史先生と櫻井武先生らは、テキサス大学サウスウェスタン医学センターで、この鍵を探しました。受容体を発現させた培養細胞に脳の抽出物を加え、細胞内のカルシウムが増える反応を手がかりに、有効な成分を絞り込みます。受容体から働く物質へとさかのぼる「逆薬理学」という方法です。

① 受容体を用意

相手が分からない受容体を、培養細胞に発現させる。

② 反応を調べる

脳から取り出した成分を加え、細胞の反応を確かめる。

③ 物質を同定

反応を起こす成分を精製し、構造を調べる。

1998年、研究チームはオレキシンA・Bと、その受容体OX1R・OX2Rを報告しました。初めから睡眠薬を作ろうとして見つけた物質ではありません。未知の物質の働きを調べる基礎研究が、後の睡眠医療につながりました。

櫻井先生の回想では、約50種類の細胞株をそろえ、1996年夏に強い反応を捉えた後も、精製・構造決定に試行錯誤を重ねています。櫻井武「オレキシンの発見」(2007年)から、発見までの過程を読むことができます。

時代の背景|米国ではどのくらいの研究費が投じられた?

NHGRIによると、ヒトゲノム計画への米国の拠出は、当初約30億ドルの計画に対して実際には約27億ドルでした。これは1990〜2003年の計画全体の規模で、オレキシン発見やオーファン受容体研究だけに使われた金額ではありません。

こうした大規模な研究が進み、遺伝子や受容体を調べる手法・知識が広がった時代に、オレキシンとその受容体の同定も進みました。未知の物質を探る基礎研究が、睡眠の仕組みの解明や治療薬につながった一例です。

NHGRI|ヒトゲノム解析の費用

食欲から睡眠へ|マウスと犬がつないだ発見

オレキシンを脳内に投与すると、動物の摂食が増えました。食欲を意味するギリシャ語「orexis」が名前の由来です。同じ時期、de Lecea・Sutcliffeらの研究グループは別の手法から同じ物質を見つけ、「ヒポクレチン」と名づけました。今も両方の名前が使われています。

発見に関わった研究者

Sutcliffe先生の写真:Jason S. Bardi/Scripps Research。写真左はElizabeth Thomas先生。

ところが、オレキシンを作れなくしたマウスを調べると、食べ方だけでは説明できない行動が見えてきました。夜間の映像で、活動していたマウスが突然動かなくなり、しばらくして再び動き出す様子が捉えられたのです。

マウス:信号を作れない

柳沢・Chemelliら。オレキシンを作る遺伝子を欠損させたマウスで、行動と脳波にナルコレプシーに似た特徴を確認。1999年8月20日、Cellに掲載。

犬:信号を受け取れない

スタンフォード大学のEmmanuel Mignot先生ら。ナルコレプシーを受け継ぐ犬の家系から、OX2受容体の遺伝子変異を特定。1999年8月6日、Cellに掲載。

物質がなくても、受容体が働かなくても、覚醒の維持が不安定になる。異なる入口から進んだ研究が、オレキシンによる信号の重要性を示しました。マウスの遺伝子欠損実験と、薬で受容体を一時的に抑える治療は、同じ条件ではありません。

Mignot先生らは犬の症状から原因遺伝子へ、柳沢先生らは未知の物質からその役割へと迫りました。両グループの発表が約2週間の間隔で並んだことも、この発見史の面白いところです。単純な勝ち負けより、二つの証拠が同じ仕組みを指した点が大きな意味を持ちます。

人のナルコレプシーへ

2000年には、ナルコレプシー患者さんの髄液でオレキシンが著しく少ないことが報告されました。現在のナルコレプシータイプ1では、オレキシンを作る神経細胞の減少・欠乏が重要です。犬で見つかった受容体の遺伝子変異が、人の一般的な原因という意味ではありません。

笑ったときなどに力が抜ける「情動脱力発作(カタプレキシー)」と、強い日中の眠気は区別して問診します。過眠症・ナルコレプシーの症状と検査へ

研究者と受賞|IIISから現在まで

柳沢先生とMignot先生は、2023年ブレークスルー賞の生命科学部門に続き、2026年アルバート・ラスカー基礎医学研究賞を共同受賞しました。覚醒を支えるオレキシンの同定と、欠乏がナルコレプシーにつながることを明らかにした研究が評価されています。

IIISでは基礎研究から治療への橋渡しも進みました。2015年には長瀬博先生・柳沢先生らが低分子のオレキシン受容体作動薬を報告し、マウスで覚醒作用とナルコレプシー症状の改善を示しています。ここから先は、動物での発見と、人を対象に有効性・安全性を確かめる臨床開発を分けて見ていきましょう。

IIIS|2015年の作動薬研究 / ラスカー財団|2026年受賞解説

同じ受容体を、抑える薬・働かせる薬

オレキシンは、起きている状態を安定して保つ信号です。その受け取り口である受容体への作用を変えると、治療の向きが変わります。

拮抗薬:信号を抑える

受容体でオレキシンの働きを妨げ、眠りを促す。不眠症の治療に使う。

作動薬:受容体を働かせる

受容体に作用して、足りない覚醒の信号を補う。オベポレクストンはナルコレプシータイプ1を対象とする。

「受容体に結合する」というだけでは、薬の働く向きは分かりません。このページでは、不眠症の薬を「拮抗薬」、受容体を活性化する薬を「作動薬」と呼び分けます。

不眠症に使うオレキシン受容体拮抗薬

ここからは、すでに不眠症の治療に使われている薬の話です。薬の一覧、共通する副作用、服用時の注意を順に確認できます。

覚醒を支えるオレキシンと、薬の働き

オレキシンは脳の視床下部で作られ、覚醒、つまり起きている状態を安定して保つ働きに関わります。「眠くする物質」ではなく、日中に起き続けるための仕組みの一部です。

この薬は、オレキシンの信号を受け取る受容体を遮断して、覚醒を一時的に抑えます。オレキシンそのものを体からなくす薬ではありません。

ふだんの働き

オレキシンは「起き続ける」を支える

脳の中でオレキシンが受容体(信号の受け取り口)に結びつくと、起きている状態を保つ仕組みが働きます。
水色の丸=オレキシン

不眠症の治療:拮抗薬

夜は、その働きを薬で弱める

薬が受け取り口に結びつき、オレキシンの信号を伝わりにくくします。起き続けようとする働きが弱まり、眠りに入りやすくなります。
紫の形=受け取り口を遮る薬

翌朝まで眠気が残ることもあります。「自然に眠れるから副作用がない」という意味ではありません。

ベンゾジアゼピン系やZ薬とは作用する場所が異なります。仕組みが違っても、翌朝に眠気が残ることはあるため、夜の眠りと日中の状態を両方みて使います。

正面向きの縦型スマートフォンで睡眠薬の解説動画を見る▶ 覚醒と睡眠薬の仕組みを動画で知る|6:20から見る →

4つの商品名と一般名を一覧で確認

いずれも、オレキシンの2種類の受容体(OX1・OX2)に作用する不眠症治療薬です。薬袋やお薬手帳に書かれた名前と照らし合わせてください。

デエビゴ

一般名:レンボレキサント
錠剤の規格:2.5mg・5mg・10mg

ベルソムラ

一般名:スボレキサント
錠剤の規格:10mg・15mg・20mg

クービビック

一般名:ダリドレキサント塩酸塩
錠剤の規格:25mg・50mg

ボルズィ

一般名:ボルノレキサント水和物
錠剤の規格:2.5mg・5mg・10mg

クービビックはダリドレキサント、ボルズィはボルノレキサントと略して説明されることもあります。上のmgは錠剤の規格で、服用量の指示ではありません。異なる薬のmgを比べても、効き目の強さは比較できません。

悪夢・翌朝の眠気など、気になる副作用

悪夢や夢が鮮明になることに加えて、眠気・だるさ・めまいなども確認したい症状です。現れ方や頻度は薬、量、併用薬、体調で異なり、全員に起こるわけではありません。

翌朝の眠気・ぼんやりする感じ

起床後も眠い、仕事中に集中しにくい、反応が鈍いなど。何時に飲み、何時に起きたか、いつまで続くかを伝えます。薬以外に睡眠不足や無呼吸などの影響も確認します。

悪夢・いつもより鮮明な夢

怖い夢で目が覚める、夢が気になって眠るのが不安になるときは相談してください。開始・増量との時間的な関係、頻度、翌日の困りごとが手がかりになります。

ふらつき・めまい・だるさ

夜中にトイレへ立つときや起床直後に注意します。転びそうになった場合は早めに相談し、足元の照明や通路も見直しましょう。

金縛りのような症状・寝入りばなの幻覚

眠りに入る頃や目覚める頃に体が動かない、夢のようなものが見えることがあります。繰り返す、強い恐怖を伴う、日中にも脱力や強い眠気がある場合は医師へ伝えてください。

頭痛や吐き気などが記載されている製剤もあります。添付文書の発現率は試験の対象・期間・用量が異なるため、数値だけで「この薬が一番安全」と順位づけはできません。

眠ったまま歩くなど、覚えていない行動やけががあった場合は、次の服用前に処方元へ連絡してください。

飲む時刻・飲み合わせ・運転の注意

  • 就寝直前に、指示された量で。服用後に仕事や外出の予定があるとき、夜中に再び活動する必要があるときは、使い方を事前に相談します。食事と同時・食直後の服用では効き始めが遅れることがあります。
  • 飲酒は避ける。眠気や判断力・運動機能への影響が強まるおそれがあります。
  • 薬を追加するときは、お薬手帳を見せる。一部の抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬などで薬の濃度が上がることがあります。併用禁止や減量が必要な組み合わせは製剤ごとに異なります。市販薬も含め医師・薬剤師へ確認してください。

運転についての注意は、薬によって書き方が違います。ベルソムラ・デエビゴ・クービビックは、薬の影響が飲んだ翌朝以降まで残ることがあるため、服用中は自動車の運転など危険を伴う機械の操作をしないよう、電子添文に書かれています。ボルズィは、医師が患者さんの状態を確かめたうえで運転してよいかを慎重に判断し、注意点を説明することになっています。眠気などがあるときは運転しません。どの薬でも、「眠く感じない」「半減期が短い」というだけで自分で運転できると判断せず、運転の予定は処方前に医師へ伝えてください。

どの薬が合うか、診察で確かめること

選ぶときは、寝つき、夜中の目覚め、翌朝の眠気、起床時刻、併用薬を一緒に確認します。年齢や肝機能なども関わります。薬が体から減る速さを示す「半減期」は参考になりますが、その時間だけ眠れるという意味ではありません。

ナルコレプシー・脱力発作、呼吸の病気、肝臓の病気がある方、妊娠・授乳中の方は処方前に伝えてください。小児では臨床試験の情報が限られており、この一覧をお子さんの薬選びにそのまま当てはめることはできません。

次の診察に持っていく、4つのメモ

  1. 薬の名前・量と、飲んだ時刻
  2. 寝つくまで・夜中の目覚め・起床時刻
  3. 翌朝の眠気や、悪夢・ふらつきの有無
  4. ほかの薬、飲酒、生活時間の変化

よくある質問

悪夢があると、薬が合っていないのでしょうか?

一度だけか、繰り返して生活に支障があるかでも対応は変わります。服用開始や量の変更からいつ起きたかを記録し、処方元へ相談してください。

依存が心配です。すぐやめても大丈夫?

作用の仕組みはベンゾジアゼピン系と異なりますが、「誰でも心配なく続けられる・急に切り替えられる」とは言えません。とくに従来の睡眠薬を併用中・切り替え中の方は、急な減量で反跳性不眠や離脱症状が出ることがあります。変更は処方医と計画します。

効かない夜は、もう1錠飲んでもよい?

自己判断で追加しないでください。翌朝の眠気が強くなるおそれがあります。食事・服用時刻・睡眠時間や、不眠以外の原因も確認します。

ナルコレプシーのオレキシン受容体作動薬

オレキシンが不足しているなら、その信号を補えないか。この発想を薬にした一つが、武田薬品のオベポレクストン(開発コードTAK-861)です。オレキシン2受容体(OX2R)に選択的に作用します。

ナルコレプシータイプ1の治療:作動薬

足りない「起き続ける信号」を補う

オベポレクストンは、オレキシンの代わりにOX2受容体を働かせ、日中の覚醒を支えます。不眠症の薬とは、働く向きが反対です。
橙色の丸=受け取り口を働かせる薬

承認と、実際に使える体制は分けて確認

武田薬品は2026年8月24日、日本でオーゼイフル錠(一般名:オベポレクストン)が、ナルコレプシータイプ1を効能・効果として製造販売承認を取得したと発表しました。PMDAの審査資料も公開されています。米国では同年8月5日の承認が発表されています。

日本の承認発表時点では発売準備中とされています。発売・薬価収載・各医療機関での処方体制は、診察時に最新情報を確認してください。当院での取り扱いを確約する案内ではありません。

第3相試験では、プラセボと比べて覚醒の維持や日中の眠気、情動脱力発作などの改善が報告されました。一方、不眠、尿意切迫、頻尿、唾液分泌過多などの有害事象も報告されています。作用する向きが違えば、確認する症状も変わります。

寝不足や一般的な疲労を埋め合わせる薬ではなく、ナルコレプシータイプ1を対象にした治療です。失われた神経細胞が再生する、服用すれば病気が完治するといった意味でもありません。診断、併用薬、安全性を専門医と確認します。

武田薬品|日本での承認発表 / PMDA|承認審査資料

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メラトニンとの違いから読みたい方には、RESMで公開している解説も参考になります。

眠りの困りごとを相談する

夜に眠れないときと、十分に眠っても日中の強い眠気が続くときでは、確認する病気や治療が異なります。不眠症では、薬の効果と困りごとを確かめながら、眠りの習慣や考え方を見直す認知行動療法(CBT-I)も検討します。日中の眠気が強い場合は、睡眠不足や睡眠時無呼吸なども含めて原因を調べることが大切です。

不眠症の薬物療法・睡眠薬全体の選び方を見る →

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参考文献・出典を開く

2026年10月3日確認。処方時は最新の電子添文を確認してください。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療上のアドバイスではありません。体調や服薬、運転を含む日常生活での注意は、担当医師にご相談ください。

下浦雄大

下浦 雄大

日本睡眠学会認定 総合専門医
日本医師会認定 産業医

RESM新東京スリープメディカルケアクリニック
副院長

📋 この記事の執筆者はコチラ

睡眠専門医が、あなたの「眠れない」に答えます。

山梨大学医学部卒業後、循環器内科での臨床経験を経て睡眠医療へ転身。現在はRESM新東京スリープメディカルケアクリニック副院長として、睡眠・循環器・産業医の3領域で診療中。いびき・睡眠時無呼吸や不眠症に加えて、「過眠症」や「概日リズム睡眠障害」の診療にも、科学的根拠にもとづいて取り組んでいます。


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RESM新東京スリープメディカルケアクリニック 副院長 下浦 雄大 | 日本睡眠学会認定総合専門医  日本医師会認定産業医

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